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学級閉鎖・学年閉鎖・学校閉鎖。 風邪・インフルエンザの時期になるとニュースを賑わわせる。 患者多数で授業が成立しなくなることと、健康な児童生徒を守ることが主目的とされる。 これを規定しているのは学校保健法なハズだが条文は読んだことがない。 ただ単なる臨時休校とは位置づけが違ったことは間違いない。
幸か不幸か、私は学生だった時分にはこれらが適用されてことはなかった。 だから自宅待機の経験もない。 自然災害での臨時休校は何度もあったから、やはりこの閉鎖という処置はあまり多くなかったのだろう。
さて、実際に教職に就いてみるとやはりまず閉鎖に遭遇することがなかった。 十数年の勤務期間の中で別々の学校で学校閉鎖が1回、学年閉鎖が1回だけ。 もちろん毎年どの学校でも風邪は蔓延したにもかかわらず、である。 特に中学校と高校の閉鎖はかなり珍しい。 ウソだと思ったら、ニュースをよく見てみるといい。 十中八九、閉鎖したのは小学校だから。 たまに中学校が閉鎖したとしてもその日の午後だけとか、非常にせこい閉鎖処置でしかない。
なぜ中学・高校は閉鎖されないのか。 早い話、校長が閉鎖に踏み切らないのである。予防という観点で学校の運営を考えることができないのだ。 理由はいろいろある。
まずメンツの問題。集団風邪で学校を閉めることが恥になるというのは一般社会ではなかなか理解しにくいことだと思うが、実際、そう思っている校長を複数見ているので間違いない。 中には管内最初の閉鎖を出した学校になることをなんとしても回避しようと腐心していた校長もいた。 いや、別に常日ごろの予防活動を積極化させたとかそういうものではなく、欠席者が多数でも単に閉鎖に踏み切らなかっただけの話なのだ。 いい面の皮なのは児童生徒である。周囲がゲホゲホしている中でひたすら堪えて授業に出なければならないためである。
次に時間割の消化の問題。 学校には年間授業日数というものがあることは広く知られているが、さらに各教科の授業時数も細かく決めれれている。 不足は許されないのだ。そのカウントを行っているのは教務主任をチーフとする教務課。 教師の休暇や出張で時間割変更が出た場合も個々に授業カウントをとっており集計している。 学校で閉鎖されたクラスが1つでも出ればこれに不足が出てくるわけである。 「ゆとり教育」なんて言われているが、実際には1年間で最低授業時数を消化するので手一杯なのが現状なのである。 それこそ春休みを潰して授業の穴埋めをしなくてはならなくなるので、閉鎖処置には消極的になるのも1つの事実である。 特に流行は受験直前期と重なっている。これも大きな要因と見て間違いない。
下校させた児童生徒の問題。 風邪ひいている子は家でおとなしくするから問題ないのだが、罹患していない子たちの動向を危惧する教師もいる。 要は「早く帰すと悪さする可能性がある」と。 だからヘタに帰すよりも学校に拘束させておいた方が良い、こう主張する教師は珍しくない。 いわゆる「生徒指導に熱心な先生」にもこのタイプは割と見られる。 保護者や生徒本人からすれば非常に心外だと思われるが、これも学校現場の現実のひとつなのである。
学校給食の問題。市町村ごとに学校給食の有無が分かれるのでこの問題には地域的な差もあることを先に書いておく。 特に集中調理を主眼とした学校給食センターから給食を受ける学校にとっては、このセンターとの連絡はなかなかの負担になっている。 食材の仕入れの関係で給食をストップさせることがなかなか困難なのである。学校閉鎖どころか全校行事も給食の制約を受けることがままある。 あるクラブが意外に勝ち進んでしまい、急遽、全校応援となったものの、給食停止の交渉に失敗し試合中に帰校してしまった、なんてケースもあった。 それほど学校サイドにとってプレッシャーになっているのであるから、これも閉鎖処置を消極的にしてしまう大きな要因になることは想像できることだろう。
罹患の証明。これの対応は各校で相当バラツキがあり、職員であった私も首をひねることが多かった。 インフルエンザの場合、前述の学校保健法の下、出席停止が命じられる。つまり欠席にはならないのである。大げさに言えば、皆勤賞をとるための経歴に傷は付かないのだ。 しかし、欠席扱いにされてしまった方も多数いるのではないだろうか? 「診断書を提出しなければ出席停止としない」こういう取り決めをする学校が多かった。 診断書もタダではない。と言うか、高い。数日の欠席を出席にするために安くない金を払って診断書をとろうとはなかなか思えないんだろう。私も正式な診断書が提出されたケースは見たことがなかった。 そういう経緯があったためだろうか、「学校で発行したプリントに医師の署名をもらえば出席停止を認める」とした学校もあった。 しかしこの場合、生徒の家庭から見れば2度手間。常識的に考えてもこれは難しかったたはずだ。 署名をもらうために再度病院に出向いたり、あるいは学校を休んで診察を受けようとするときにわざわざプリントをもらいに学校に寄る? せいぜい、早退して診察を受けようとする児童生徒にプリントを持たせるくらいが関の山である。 実際、この『簡易診断書』ですら提出されることは稀であった。 「医師がインフルエンザと判定したら、その旨を学校に報告すれば出席停止」とした学校もあった。 しかしこれもここ数年、インフルエンザの判定が即日可能になってからできることであり、一昔前のようにウィルスの判定が出るまで1週間以上も掛かっていた時代には非現実的な話だった。 つまり、あまり学校側としては流行っているのが風邪なのかインフルエンザかなど大した問題ではなく、ましてや出席停止の有無なんてことを重視していない、と。 副担任の仕事として学年末に出席簿チェックを命じられることが多かったが、出席停止の印が付いた出席簿を見ることはまずなかった。
一般に養護教諭、つまり保健室の先生は職務柄、この問題にかなり敏感であり、こうした学校の危機感の無さをあまり良く思っていなようであった。 だから予防のための手洗い・うがいの励行・換気などを促すのだが、小学校やよほど人間関係が良好な小規模校以外ではそういう意見が通ることもまずなかった。 小学校での指導が実を結び、手洗い・うがい・歯磨きの習慣が定着していたにも関わらず中学校でそれがあっさりと初期化されてしまう現実を嘆く養教さんも存在していた。 食事前の手洗いよりも時間通りに席に着くことを生徒指導部は要求していたし、そもそも教師陣の衛生意識も一般常識に比べてもあまり高いとは言えないのである。
お役所的な学校運営の方針を改め、看護学部出身の専門職である彼女ら(あまり知られていないが養護教諭は全員、高等看護師資格を持っているのだ。)に耳を傾けない限り、今後も学校内での大規模流行は際限なく繰り返されることだろう。 それこそ新型インフルエンザなど発生した場合、学校が主要な感染場所になりかねないのではないかと私は危惧している。
しかし例外的もあった。 インフルエンザ感染の防止を主眼として流行の初期の段階で数日間、学校閉鎖に踏み切った例があった。 校長が理科教諭上がりであり、かつ病気に対し充分な見識を持った衛生学士だったのである。 しかし当地の教育委員会がこの英断を他山の石とした形跡は、ないのである。
そして今年も各学校の閉鎖のニュースが流れる季節になった。 あいかわらず、閉鎖するのは小学校ばかりである。
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